第2部全10回

既存金融×ブロックチェーン

取引・譲渡・与信といった既存金融の仕組みから、オンチェーンで何がどこまで成立するのかを考える回。

  1. EP.013

    そうだったのかブロックチェーン EP.013 | トークンを移せば「所有権」も移るのか? 取引と譲渡から考えるオンチェーン金融

    第12回で「トークンとは何か」を扱った第1部が完結し、第13回からは第2部「既存金融×ブロックチェーン」が始まる。内田が掲げる結論は「オンチェーンファイナンスをぶっ飛ばせ」。だがその前に、金融とは何かを基本から紐解く回となった。金融とは「お金の融通」であり、決済だけで閉じるなら金融という言葉はいらない。決済の外側にある「与信」が定義されて初めて金融の世界観は閉じる、と内田は整理する。酒井は、リンゴを100円で売る取引からその場その時限りの交換(DVP)を確認し、大阪の相手に宅急便で送る、翌日渡す約束で先に代金をもらう、と場所と時間を広げていくことで与信が現れる過程を描く。与信は貸付行為とイコールではなく「将来の実現に対する期待」であり、三角取引や仕入れと販売の時差を誰かが埋めることで経済活動が回り出す。後半は所有権の話へ。民法の物権と債権、握りしめることで所有を主張する原理、債権を紙に刷った有価証券、そして電子化。上場株はほふり(証券保管振替機構)のデータベースへの記帳が法律で所有権の移転と定められている——ここが決定的で、暗号資産やセキュリティトークンには対応する特別法のデータベースがなく、無体物として所有権の定義が難しい。米国の株式トークン化はほふりのコピーと同期する二階建てか、株価に連動するだけの「なんちゃって」であり、欧州もPoC止まり。「ほふりはシステムとしては大したことない。大事なのは法律が守ってくれるという仕組みの方だ」と酒井が締めくくる。

  2. EP.014

    そうだったのかブロックチェーン EP.014 | KYCなしで「与信」は成立するのか? 既存金融から考えるクリプトの守備範囲

    第13回で取引・譲渡・所有権を扱った第2部第1回に続き、今回はそこで軽く触れた「与信」を正面から深掘りする。酒井は、末締め翌月末払いの給料、掛けでの仕入れ、SaaSの年間契約と、現代のビジネスがその場その時ではない取引=与信だらけで成り立っていることを身近な例から示す。企業は自らの信用をレバレッジに銀行融資を受けて事業を大きくするが、エクイティと違って融資は「返せ」と回収に行ける必要があり、そこには相手が誰かを知るKYCが欠かせない。内田は、AIエージェント×クリプトのマイクロペイメントが支払いを細かく切り刻むのは、与信が不要だからではなくKYCを前提にしないクリプトでは与信が成立しないからだと裏返して読む。さらにサトシ・ナカモトの論文が語っていたのは決済機能であって与信ではない、と指摘。後半は貿易金融へ。国際送金の大半は貿易の決済であり、そこは信用状(レターオブクレジット)と船荷証券(ビルオブローディング)による相互の与信で成り立つ。デジタル化とクリプト化の混同は禁物で、2国の裁判所が納得する"国際版ほふり"は20〜30年議論しても決着していない。結論として、クリプトは与信行為が終わった後の「決済」に特化するのが得意で、オンチェーンで全部やろうとするのは守備範囲の取り違えではないか。スマートコントラクトもオラクル問題を抱える以上、「クリプト前提」でナラティブを作るのではなく、やりたいことから逆算して必要な仕様を考えるべきだと問題提起した。

  3. EP.015

    そうだったのかブロックチェーン EP.015 |ステーブルコインのメカニズムと懸念点

    第13回の譲渡・所有権、第14回の与信を受け、第2部「既存金融×ブロックチェーン」は資金決済の道具「ステーブルコイン」へ。まず日本では「ステーブルコイン」は法律用語ではなく資金決済法の「電子決済手段」であること、日本円と1対1の償還を約束する1号(JPYC)と、特定信託受益権で倒産隔離された3号(JPYSC)を軸に、裏付け資産(銀行預金・3か月未満の短期国債)は共通でも「持ち方」と倒産時の償還スピードが違うことを整理する。送金上限(1回100万円)や償還時の手数料、国債の金利上昇で裏付けが元本割れするリスク、テラ/ルナの例から「ステーブル=ペグ(釘付け)の保証ではない」ことを確認。市場規模は日本円建て130億円弱で全体(約3000億ドル)のごく一部、しかも増えていない現状も提示する。後半はクレジットカード=信用を肩代わりするミドルマンのコストとの対比、そして低金利下では発行体の収益が成り立ちにくいことから「日本円ステーブルコインは本当に必要か」を一歩引いて考える。次回・第16回はステーブルコインの続き。

  4. EP.016

    そうだったのかブロックチェーン EP.016 |ステーブルコインは本当に金融を便利にするのか? 既存金融とWeb3の「ズレ」

    前回のステーブルコインが盛り上がり、急遽の延長戦となった第16回。テーマは「ステーブルコインは本当に決済に使えるのか」。まず既存金融を3つの基本——①最終決済手段は法定通貨、②銀行の信用創造を軸とした経済システム、③倒産制度が整い「取りはぐれ」を前提に与信が成り立つ——に整理する。これに対しWeb3業界の理想(通貨発行の民主化・銀行を必須としない分散・過剰担保とコードによる自己責任)を対置し、KYCやプライバシーをめぐって両者がすれ違う「ズレ」を確認。ステーブルコインを既存金融で使うなら制度に乗るほかなく「いいとこ取り」は難しいこと、銀行にとってはトークン化預金の方が筋がよく3メガも本音では消極的であること、BIS・IMFが決済手段の3要件(単一性・弾力性・完全性)からステーブルコインを未成熟と見ていることを掘り下げる。米国のジーニアス法やCBDCを禁じる背景の思惑にも触れ、「オンチェーンファイナンス」は何をどこまで変えるのかが見えず議論の土台に載っていないと問題提起。次回・第17回はDeFiへ。

  5. EP.017

    そうだったのかブロックチェーン EP.017 | DeFiを「金融の基本」から考える。ステーキングの仕組みと報酬の裏側

    第2部のステーブルコインに続く今回のテーマは「DeFi(分散型金融)」。まずDeFiを「ミドルマン(仲介業者)のいないマーケットプレイス」と定義し、スマートコントラクトで動くがゆえのラグプルや監査・ハッキングのリスクにも触れる。Uniswapが持ち込んだ「流動性プール(x×y=k)」が、板取引に代わる価格メカニズムとしていかに革新的だったか、Curveの「veトークン」(未来へのコミットをロックする仕組み)やDEXアグリゲーターの広がりまでを整理する。後半は「金利」の基礎に立ち返り、取りはぐれを前提にしない「無リスク金利」と、相手が見えないことで乗る「リスクの対価」を区別。そのうえで、DeFiで語られる年利10〜15%の“利回り”はどこから来るのかを、お金を貸す側・借りる側の両面から問い直す。PoSのステーキング(スラッシングの担保=ネットワークへの貢献に対する報酬)は筋が通る一方、自己発行トークンをロックさせるだけの「謎ステーキング」は売り圧を抑える操作にすぎないのでは、と指摘。リスクの説明が曖昧なのにリターンだけ明快なものには要注意——という視点で締める。次回・第18回はパーペチュアルと予測市場へ。

  6. EP.018

    そうだったのかブロックチェーン EP.018 | 金融とギャンブルの境界は? 無期限先物・予測市場・株式トークン化を考える

    DeFiの延長として、今回は「パーペチュアル(無期限先物)」「予測市場」「株式のトークン化」を既存金融の視点から切り込む。まず先物の基礎——限月・ロング/ショート・先決済(現物の受け渡しなし)を押さえ、米(堂島)やアイスクリーム屋・原油・FXの例で「価格を固定してリスクをヘッジする」のが本来の目的だと確認する。ここで効くのが満期=限月で、その時点で先物価格と現物価格が一致することが商品性の土台になる。ところがパーペチュアルには満期がなく、ファンディングレート(年利換算で約11.6%が目線だが水準自体に意味はない)で現物と収束させる。満期がない=経済活動と紐付かない取引は「賭博」に近づく、という論点から、20倍レバレッジで膨らむギャンブル性、CEX不要論、そして予測市場(天候デリバティブというヘッジとの対比)やブックメーカーとの違いへ。株式のトークン化も、議決権のないラップドトークンで“株価の上下だけ”に賭ける構図になりがちで、ノンKYCのパブリックチェーンで自社株が誰にでも買われる怖さ(発行体視点)や24時間365日・サーキットブレーカー不在の問題を指摘する。ダイレクトリスティング・SPAC・ゲームストップ事件を「ミドルマンへのカウンター」として振り返りつつ、それでもDeFiには期待している——道具の革新と使い方の是非は別、と締める。次回・第19回は金融危機と金融規制へ。

  7. EP.019

    そうだったのかブロックチェーン EP.019 | 金融危機はなぜ繰り返すのか? 歴史から考えるリスクと金融規制

    第2部もいよいよ大詰め。今回のテーマは「市場の安定と金融秩序」。まず「リスク」を、単なる不確実性でも損失でもなく、想定外の事象で資本が毀損し「事業の継続性が維持できなくなる可能性」として定義し直す。そのうえで金融規制には「投資家・消費者の保護」と「金融システムの安定」という2つの目的があり、経済が“巡航速度”で回り続けることこそが狙いだと確認する。ポイントは、一人ひとりが合理的に現金化へ走ると市場全体が凍りつく——個々の合理性が全体の危機を生む、という構図。さらに、安定とは「不安定が起きにくい状態」として裏側から定義するしかないこと(BIS・IMFの発想)、横断面(相互接続)と時系列(バブルの膨張)という2つの見方、そして「システミックリスク」のトリガーは事前にはまず分からないことを整理する。後半は金融危機の歴史をローマ帝国(ティベリウス帝の与信ルール変更)から、南海会社・ミシシッピ会社の投機ブーム、ロンドン恐慌、世界恐慌、リーマンショックまで一気にたどり、その多くが「与信」の過剰な拡大を起点にしていること、そして“期待を担保に期待を買う”バブルとの違いを浮かび上がらせる。フィアット通貨そのものが危機の原因とは限らない、という視点も。締めくくりは、金融秩序とは価格を固定することではなく、権利義務や決済が「予測可能に動き続ける」こと。規制の目的は損失をゼロにすることではなく「損失を負担できる主体に負担させる」ことだ——という問いへ。次回・第20回は、その危機をどう防ぐか(リスクマネジメント)へ続く。

  8. EP.020

    そうだったのかブロックチェーン EP.020 |オンチェーン金融とステーブルコイン、金融危機に備えるリスクマネジメントとは?

    前回に続く「市場の安定と金融秩序」の後編。テーマは、金融秩序を守るための「リスクマネジメント」とは何か。まず大前提として、リスクマネジメントの目的はリスクをゼロにすることではない——どんなリスクテイクを促し、どんなリスクテイクを抑えたいのか、という視点で規制は組み立てられる。リスク対応には「保有・回避・移転・縮減」の4種類があり、個々の主体が健全でも全体は不安定になりうる。そこで当局はマクロの視点から、危機が深刻化する“芽”を3つ——好況で膨らむ「プロシクリカリティ」、参加者が相互に連鎖する「インターコネクテッドネス」、損失を吸収する力である「レジリエンス」——として捉える。そのうえで、リスクの価格付け・レバレッジ・短期流動性・相互連関という観点で、資本市場(暗号資産)・銀行・ノンバンク・市場インフラといったセクターごとに市場を観測するフレームを提示。FSBやIMFが暗号資産・ステーブルコイン・DeFiを一体的に見ていること、ステーブルコインは「準備資産があること」だけでなく「実際に額面どおり償還できるか」が重要で、裁定業者による大量償還といったシナリオ分析が欠かせないことを掘り下げる。株式市場の「サーキットブレーカー」が単一の取引所を前提に機能する一方、分散した暗号資産市場には同様の仕組みがないことも指摘。最後に、「オンチェーンファイナンス」という語が日本以外ではほとんど使われていないことに触れ、規制とは各国の「意思(ウィル)」の表れであり、他国に無条件で追随するのではなく冷静な議論の積み上げが必要だ、と問題提起する。次回・第21回は、各国の金融規制・暗号資産関連業務規制の現在地へ(延長戦)。

  9. EP.021

    そうだったのかブロックチェーン EP.021 |各国は暗号資産をどう規制するのか? 5つのレイヤーで読み解く日米欧の制度

    今回のテーマは「各国の金融規制」。個別の条文を暗記するのではなく、各国が“どこを見て、どの方向へ進もうとしているか”というレイヤーで捉えるのが狙い。まず暗号資産の規制を5つの層——①資産そのもの(ビットコインか、発行体のあるトークンか)②発行体の行動(発行・償還・開示・勧誘)③仲介(交換業・ブローカー/ディーラー)④市場インフラ(どのチェーンを使うか、DeFi、決済ルール)⑤既存金融との接続(AML/CFT)——に分けて整理する。自動車(車種・製造基準・販売店・信号・ナンバープレート)になぞらえると分かりやすい。そのうえで、日本(資金決済法+金商法、2026年可決・2028年施行で有価証券法へ)、EU(横断的に整理したMiCA、アセットリファレンスド/Eマネー、パスポート制度)、米国(包括法はまだ無く、ステーブルコインのジーニアス法のみ成立、クラリティ法は議論中。SEC対CFTC、強力なロビイング)、香港(ステーブルコイン免許制度、HKMA)、シンガポール(サンドボックス、MAS、ファストペイメント接続実験)、英国(FSMAの増改築、2027年秋開始)、中国(民間クリプトは制限、e-CNYが中央銀行の負債から民間銀行の負債=預金トークン化へ)をウォークスルー。国ごとに条文は違っても「同じ活動・同じリスクには同じ規制を」という国際原則(FSB・BIS)があること、そして「5つの層×5つの問い(誰が負債を負う/損失を吸収する/顧客資産を預かる/どの法律が決める/危機時に誰が止める)=25の箱」で見ると、条文は違えど中身が似てくることを示す。最重要は暗号資産が「既存金融とどう接続するか」であり、双方向の“伝播(コンテイジョン)”をどう制御するか。最後に、規制当局は「平時はグローバルに協調し、危機時には自国民の利益を最優先する(=ローカルになる)」という構造的限界を抱えること(FTX破綻時の対応が象徴)、軸は「グローバル・インターオペラビリティ」だと整理する。次回・第22回は第2部のまとめ。

  10. EP.022

    そうだったのかブロックチェーン EP.022 |【第2部まとめ】ブロックチェーンは金融を変えるのか?

    4月から走ってきた「そうだったのかブロックチェーン」、今回で第2部も最終回。テーマは第2部全体のまとめ——「既存金融×ブロックチェーン」の現在地です。まずは第2部を7つのセクション(取引/与信/ステーブルコイン/DeFi・予測市場・無期限先物/システミックリスク/金融規制)でざっと振り返り。意外にも第1部より第2部の方が視聴数が多かったという話から、「決済(ペイメント)は金融の主要な機能ではない」という第2部の裏テーマを改めて確認します。ブロックチェーンが金融でできることの多くは決済の高度化にとどまり、トークンを使わずブロックチェーンだけを既存金融に当てはめると、DXにもならない“ちょっと早いデジタル化”やミドルマンの改善どまりになりがち——複雑に積み上がった既存金融(ソフトウェア+法律+規制)に、スタートアップが小さく入っていくのはしんどい。入り口は美味しいが奥に行けない、そもそもブロックチェーンを当てはめる場所を間違えたのではないか、という議論です。そのうえで、ではどこに夢があるのか。「24時間365日」と「インスタントセトルメント」は別物で、自動化と責任を負う主体も別。プログラマブルペイメントは小さな話でも、プログラマブルクレジット=バランスシートのプログラマブル化まで広げると面白くなる。ペイメントキャパシティではなくバランスシートキャパシティの拡大、銀行(与信する主体)と二人三脚で、国をまたいで動く“渡り鳥”のようなトークン、ステーブルコインとトークナイズドデポジット(箱庭と箱庭を行き来する機能)、そしてクレジットを構成するパブリック/プライベートな情報とデータの自己主権——第3部への橋渡しとなる論点が次々に出てきます。否定ばかりに見えた第2部の先に、第3部では「マネーには収まらない何かをトークンで動かす・見せる・もらう」話へ。KYCとは、IDとは、データの自己主権、クレデンシャルの活用、そしてインセンティバイズ。半年の総決算を聞きながら、次の一歩を一緒に考えてみてください。