第2部 全5回

既存金融×ブロックチェーン

取引・譲渡・与信といった既存金融の仕組みから、オンチェーンで何がどこまで成立するのかを考える回。

  1. EP.013

    そうだったのかブロックチェーン EP.013 | トークンを移せば「所有権」も移るのか? 取引と譲渡から考えるオンチェーン金融

    第12回で「トークンとは何か」を扱った第1部が完結し、第13回からは第2部「既存金融×ブロックチェーン」が始まる。内田が掲げる結論は「オンチェーンファイナンスをぶっ飛ばせ」。だがその前に、金融とは何かを基本から紐解く回となった。金融とは「お金の融通」であり、決済だけで閉じるなら金融という言葉はいらない。決済の外側にある「与信」が定義されて初めて金融の世界観は閉じる、と内田は整理する。酒井は、リンゴを100円で売る取引からその場その時限りの交換(DVP)を確認し、大阪の相手に宅急便で送る、翌日渡す約束で先に代金をもらう、と場所と時間を広げていくことで与信が現れる過程を描く。与信は貸付行為とイコールではなく「将来の実現に対する期待」であり、三角取引や仕入れと販売の時差を誰かが埋めることで経済活動が回り出す。後半は所有権の話へ。民法の物権と債権、握りしめることで所有を主張する原理、債権を紙に刷った有価証券、そして電子化。上場株はほふり(証券保管振替機構)のデータベースへの記帳が法律で所有権の移転と定められている——ここが決定的で、暗号資産やセキュリティトークンには対応する特別法のデータベースがなく、無体物として所有権の定義が難しい。米国の株式トークン化はほふりのコピーと同期する二階建てか、株価に連動するだけの「なんちゃって」であり、欧州もPoC止まり。「ほふりはシステムとしては大したことない。大事なのは法律が守ってくれるという仕組みの方だ」と酒井が締めくくる。

  2. EP.014

    そうだったのかブロックチェーン EP.014 | KYCなしで「与信」は成立するのか? 既存金融から考えるクリプトの守備範囲

    第13回で取引・譲渡・所有権を扱った第2部第1回に続き、今回はそこで軽く触れた「与信」を正面から深掘りする。酒井は、末締め翌月末払いの給料、掛けでの仕入れ、SaaSの年間契約と、現代のビジネスがその場その時ではない取引=与信だらけで成り立っていることを身近な例から示す。企業は自らの信用をレバレッジに銀行融資を受けて事業を大きくするが、エクイティと違って融資は「返せ」と回収に行ける必要があり、そこには相手が誰かを知るKYCが欠かせない。内田は、AIエージェント×クリプトのマイクロペイメントが支払いを細かく切り刻むのは、与信が不要だからではなくKYCを前提にしないクリプトでは与信が成立しないからだと裏返して読む。さらにサトシ・ナカモトの論文が語っていたのは決済機能であって与信ではない、と指摘。後半は貿易金融へ。国際送金の大半は貿易の決済であり、そこは信用状(レターオブクレジット)と船荷証券(ビルオブローディング)による相互の与信で成り立つ。デジタル化とクリプト化の混同は禁物で、2国の裁判所が納得する"国際版ほふり"は20〜30年議論しても決着していない。結論として、クリプトは与信行為が終わった後の「決済」に特化するのが得意で、オンチェーンで全部やろうとするのは守備範囲の取り違えではないか。スマートコントラクトもオラクル問題を抱える以上、「クリプト前提」でナラティブを作るのではなく、やりたいことから逆算して必要な仕様を考えるべきだと問題提起した。

  3. EP.015

    そうだったのかブロックチェーン EP.015 |ステーブルコインのメカニズムと懸念点

    第13回の譲渡・所有権、第14回の与信を受け、第2部「既存金融×ブロックチェーン」は資金決済の道具「ステーブルコイン」へ。まず日本では「ステーブルコイン」は法律用語ではなく資金決済法の「電子決済手段」であること、日本円と1対1の償還を約束する1号(JPYC)と、特定信託受益権で倒産隔離された3号(JPYSC)を軸に、裏付け資産(銀行預金・3か月未満の短期国債)は共通でも「持ち方」と倒産時の償還スピードが違うことを整理する。送金上限(1回100万円)や償還時の手数料、国債の金利上昇で裏付けが元本割れするリスク、テラ/ルナの例から「ステーブル=ペグ(釘付け)の保証ではない」ことを確認。市場規模は日本円建て130億円弱で全体(約3000億ドル)のごく一部、しかも増えていない現状も提示する。後半はクレジットカード=信用を肩代わりするミドルマンのコストとの対比、そして低金利下では発行体の収益が成り立ちにくいことから「日本円ステーブルコインは本当に必要か」を一歩引いて考える。次回・第16回はステーブルコインの続き。

  4. EP.016

    そうだったのかブロックチェーン EP.016 |ステーブルコインは本当に金融を便利にするのか? 既存金融とWeb3の「ズレ」

    前回のステーブルコインが盛り上がり、急遽の延長戦となった第16回。テーマは「ステーブルコインは本当に決済に使えるのか」。まず既存金融を3つの基本——①最終決済手段は法定通貨、②銀行の信用創造を軸とした経済システム、③倒産制度が整い「取りはぐれ」を前提に与信が成り立つ——に整理する。これに対しWeb3業界の理想(通貨発行の民主化・銀行を必須としない分散・過剰担保とコードによる自己責任)を対置し、KYCやプライバシーをめぐって両者がすれ違う「ズレ」を確認。ステーブルコインを既存金融で使うなら制度に乗るほかなく「いいとこ取り」は難しいこと、銀行にとってはトークン化預金の方が筋がよく3メガも本音では消極的であること、BIS・IMFが決済手段の3要件(単一性・弾力性・完全性)からステーブルコインを未成熟と見ていることを掘り下げる。米国のジーニアス法やCBDCを禁じる背景の思惑にも触れ、「オンチェーンファイナンス」は何をどこまで変えるのかが見えず議論の土台に載っていないと問題提起。次回・第17回はDeFiへ。

  5. EP.017

    そうだったのかブロックチェーン EP.017 | DeFiを「金融の基本」から考える。ステーキングの仕組みと報酬の裏側

    第2部のステーブルコインに続く今回のテーマは「DeFi(分散型金融)」。まずDeFiを「ミドルマン(仲介業者)のいないマーケットプレイス」と定義し、スマートコントラクトで動くがゆえのラグプルや監査・ハッキングのリスクにも触れる。Uniswapが持ち込んだ「流動性プール(x×y=k)」が、板取引に代わる価格メカニズムとしていかに革新的だったか、Curveの「veトークン」(未来へのコミットをロックする仕組み)やDEXアグリゲーターの広がりまでを整理する。後半は「金利」の基礎に立ち返り、取りはぐれを前提にしない「無リスク金利」と、相手が見えないことで乗る「リスクの対価」を区別。そのうえで、DeFiで語られる年利10〜15%の“利回り”はどこから来るのかを、お金を貸す側・借りる側の両面から問い直す。PoSのステーキング(スラッシングの担保=ネットワークへの貢献に対する報酬)は筋が通る一方、自己発行トークンをロックさせるだけの「謎ステーキング」は売り圧を抑える操作にすぎないのでは、と指摘。リスクの説明が曖昧なのにリターンだけ明快なものには要注意——という視点で締める。次回・第18回はパーペチュアルと予測市場へ。